好調だったスタートの2軒で調子に乗った。3店舗目で失敗し、倒産に迫るほどの大赤字に苦しむ。大失敗したからこそ得た経営の原点とは。
2007年に赤羽で誕生し、瞬く間に地域の大人気店となった『もつ焼のんき』。飲食店の寿命が3年と言われる中、16年が経った今も次々と繁盛店を生み出す株式会社ネクストグローバルフーズ。代表の荻野貴匡氏が、決して順風満帆ではなかったエピソードを語ってくれた。
いきなり売り上げを生んだ『もつ焼のんき』1号店
─まずは、荻野さんが起業から『のんき』を始めるまでの流れをお聞かせください
私が起業を決めた時は、社会的な実績や信用はゼロ。もちろん銀行は貸してくれないので、すでに経営者だった友人と父から資金を借りました。1号店は東京都赤羽の『もつ焼のんき』です。自画自賛になりますが、スタートから順調な滑り出しでした。銀行からの信用も得られ、半年後には2店舗目を出店。当時は、“もつ焼き”を売りにする店が少なかったこともあり、戦略としても結果に繋がったと思います。
3号店で会社が傾くほどの大失敗
─創業からまもなく、とんでもない失敗を経験したそうですね
ビアガーデンを目論んだ、3店舗目の恵比寿で大失敗しました。2店舗の成功で調子に乗ってしまい、これまでの2倍以上の家賃の物件に挑戦したんですね。ところが、現実はすべてが中途半端な出店でした。最初の2軒は家賃も安く、路面店なので目にも止まるし入りやすい。一方、恵比寿は3Fと4Fの2フロアなので、集客の導線も良くないわけです。さらに、ビアガーデンで収益を狙うはずだったのに、オープンしたのはなぜか真冬(笑)。ヒーターなどの防寒対策も考えていなかったので、当然お客様は来ませんでした。
─なんとも言えない奇策ですね(笑)。どう対処されたのでしょうか
まったく売り上げが作れないので、もちろん自分の給料はゼロ。1号店と2号店の黒字をもってしても補填できないほどの赤字でした。家賃や社員の給料のために、貯金を切り崩してギリギリで耐えている状態。いよいよ5月を迎え、6月からのビアガーデンの結果次第では、確実に会社ごと倒れる状況です。しかし、ビアガーデンの売り上げで一気に回復し、一旦どん底からは脱出できた。ただ、冬になればまた売り上げが落ちるので、契約期間の3年を耐え抜いて撤退しました。
「恵比寿は毎月の家賃が100万円。貯金が底を尽きるまで、絶対に諦めない覚悟で挑んでいました」
─大きな失敗として、得るものもあったのではないでしょうか
経営者としての意思決定を間違えると、お金も時間も失ってしまうんだなと。その後は初心に戻り、今までの路面店や居抜きを中心の出店に切り替えました。大きな失敗でしたが、3店舗という規模のうちに経験できて良かったと思ってます。あまりに巨大な規模で失敗すると、逆に立て直すのが難しいケースも目にしますし。
新規出店のメリットは売り上げだけではない
─新店舗で失敗すると、次の出店が怖くなる経営者もいらっしゃいますね
私も怖かったですし、今でも出店の度に緊張しますよ(笑)。実は、改めて出した3店舗目も半年ほど苦戦したんです。ただ、居抜き店舗で初期投資を抑えたので、恵比寿のようなピンチはありませんでした。特に、飲食店は初期投資の金額によって、キャッシュフローが大きく変わります。早めの回収は財務を厚くできて、新店舗の資金や社員への還元など、結果として経営の選択肢が増えるのです。
─初期投資だけでなく、ランニングコストも下げることが経営の本質であると
いえ、必ずしもそうではないんです。亀戸の『焼鳥のんき』は、デベロッパーの家賃設定が歩率なので、売り上げに比例してランニングコストが上がります。ところが、ブランディングの視点では良い投資でもあるんです。カメクロ横丁のテナントで、もっとも集客するのが『焼鳥のんき』なんですね。これは実績になるので、新たな商業施設からの依頼の際、こちらの条件提示がしやすくなります。トータル面で見ても、やって良かった挑戦です。恵比寿の失敗から、コストをあらゆる角度から考えるようになったので、あれはあれで良い学びにもなってます。
お客様をもてなす空間にはコストを掛ける
─この数年で空間デザインや内装設備にも大きな変化があったそうですね
そうなんです。以前は、可能な限りコストを抑えて出店していたんです。例をあげると、2年契約のテナントの場合、初期投資を期間内に回収できる金額に収める。ところが、打ち合わせで『のんき』へ行ったところ、とても安っぽい空間にガッカリしました。それなりに味のある演出をしても、上辺だけのチープなお店に感じたんです。自分が行きたいと思えない場所では、お客様だって行きたいはずがない。当然スタッフだって気持ちよく働けないし、自分のお店に自信が持てないですよね。
「スタッフやお客様が存在するイメージでデザインすると、心地良い空間のお店になるんです」
─良いお店だと、スタッフも誇りと愛着を持って仕事ができると思います
おっしゃる通りです。現在は『代官山のんき』をはじめ、すべての店舗をデザインから作り込む方針に切り替えました。デザインは上野建築研究所の上野社長との出会いが大きく、我々の想いを具現化していただけるので非常にありがたく思っています。初期投資は掛かりますが、良い店が良いお客様と良い社員を呼び、満足度も上がり、巡り巡って経営に反映される。弊社の理念である、「お客様の時間をより豊かに。より素敵な時間へ華を添える。」を実現するためにも、おもてなしをする空間から力を入れていきます。
経営者は不安と戦い、不安から学び、不安と向き合うことで成長すると取材を終えて確信した。16年間『のんき』ブランドを守り、スタッフをも守る荻野氏は、さらなる愛情と最高のおもてなしを提供し続ける。
社名 | 株式会社ネクストグローバルフーズ |
住所 | 東京都新宿区富久町16-6 西倉LKビル 7F |
代表 | 荻野 貴匡 |
設立 | 2007年2月 |
HP | https://next-gf.com/ |