失敗=単なる事象に過ぎないと捉える。変えられない結果を見つめても、未来は1ミリも変わらない。今できることだけに集中し、覚悟を持った意思決定がチャンスを生む。
中野優作(なかの ゆうさく):香川県さぬき市出身。大手不動産会社を経て、中古自動車販売のビッグモーターに入社。入社後数ヶ月でトップクラスの営業パーソンとして注目をあび、西日本の営業部長や子会社化した株式会社ハナテンの社長に抜擢される。業界の課題に立ち向かうべく、2017年に中古車販売のBUDDICA(バディカ)を設立。“新車を作らず、愛車を作ろう。”を使命に掲げ、7期目を迎えた現在は全国に9店舗を構える。業界で注目を浴びる中野氏に、失敗に対する考え方と立ち向かい方をお聞きした。
記憶には残ってないが、多くの失敗を経験してきた
─まず、中野さんの人生のなかで記憶に残るような失敗があればお聞かせください
様々な取材で聞かれますが、私のなかで失敗の記憶はほぼないんです。もちろん一度も失敗していないという意味ではありません。常にプラスに変換しようと意思決定してきた結果、記憶に残るような失敗がないということですね。
バディカ存続を左右する失敗で選択した決断
─自らの意思決定でプラスに好転させるなかで、判断に迷うこともあったのではないでしょうか
もちろんありました。例えばビッグモーター事件の際、「バディカにはビッグモーターの元社員が多いんだから、中には不正に加担していた人もいるのでは?」と、X(旧ツイッター)で言われたんです。私は社員ひとりひとりに確認したあと、「バディカには不正していた人はゼロ」と公言しました。すると一人の社員から、「実は不正に加担したことがあります」という連絡がきたんです(笑)。内容的には止むに止まれぬ不正でしたが、彼としてはバディカに迷惑をかけたくないという想いがあったようで。「明るみになる前に辞めるので、公言した内容はそのまま通してください」と言われました。
─公言した手前、あとから言うと大事になりますよね
おっしゃる通りで、彼はその闇の部分を背負って辞めようとしたんです。ただ、そこで私はすべてをXで公開すると決めました。「不正した人はいないと言いましたが、ひとりの社員が 『実は不正したことがある』と名乗り出ました」と。当事者を含め、すべての方に申し訳ないし、私たちはこの事実と向き合ってやり直していきますと発信しました。また、詳細を公開することで再発防止に努め、マスコミの取材にもすべて対応しますとポストしたんです。
「前職での不正を包み隠さず公開したことで、結果的には多くの応援と信頼をいただけるようになりました」
─凄い決断ですね。。
正直なところ、経営者として会社の存続と今後の展望を考えると大きな決断だったと言えます。彼からの闇に葬る提案も、迷わず「無し」とは即答できませんでした。ただ、覚悟を持って告白してくれた彼を見捨てたくなかったし、活かしてあげたいじゃないですか。もう行くしかないと、前に出るしかないと腹をくくったんです。
─結果として多くの称賛の声が上がっていたと記憶しています
そうなんです。炎上覚悟でしたが、逆に賞賛され、失敗になる事象がプラスに転換されたんですね。中でも多かったコメントは「どうしても車はトラブルが避けられない。重要なのは、その時に正直に対応してくれるところで買いたい」だったのです。これはあくまでも一例ですが、すべての失敗とされる事象も同じように捉え方と対応で決まると思います。
変えられない過去に苦しんだビッグモーター時代
─では今まさに失敗して辛い思いをしている人に対して、なにかアドバイスはありますか
失敗で“辛い”とか“しんどい”というのは、意識の問題だと思います。過去を追体験するから辛くなり、その結果、現在の思考力が下がってしまう。起きた事象をスタートラインとして、どうすれば未来をプラスに転換できるかだけ考えるべきです。そうすると、失敗の概念そのものが変わると思います。
─ビッグモーターの一件はまさしくだと思います。どのようにして、その考え方ができるようになったのでしょうか
きっかけは、26歳でビッグモーターに入社した時です。私は入社から数ヶ月で売り上げトップクラスに入り、全店舗のなかでも名前が知られるようになりました。しかし、店では歴が浅いこともあって、平気でパシリをやらされるんです。年下のスタッフからはパンを買ってこいと言われ、上から目線のタメ口でバカにされることも日常でしたね。一瞬は頭にくるんですが、それよりも自分の人生の後悔のほうが強かったんです。
─自分の人生への後悔というと
自分は今まで何をやってたんだ、と考えるようになったんです。私も彼らと同じように進学し、新卒で入っていればこんな思いはせず、順調にキャリアアップしていたのに。何も考えずに高校を中退し、中卒の人生を生きてしまった自分を後悔しました。
過去に戻りたいと思う生き方をやめた動画との出会い
─この時は変えられない過去に対してマイナスな感情を持っていたんですね
その通りです。そんなある日、YouTubeで哲学者ニーチェの「今やり直せよ未来を」というメッセージと出会いました。
“いま君は、過去に戻って人生をやり直したいと思っているのではないか?”というもので、まさに私が悔しく思っていたこと。さらに、“この先の10年後も、10年でいいから戻ってやり直したいと思わないか?”と。“現在の行動が後悔になるのであれば、未来も同じではないか。また無駄な10年を繰り返すのか”というメッセージが当時の自分に深く突き刺さったんです。
「スティーブ・ジョブズが、“今日が人生最後の日でも本当にそれをやるか”と、毎日自分に問い続けたように、常に後悔しない生き方を心がけています」
─ビッグモーターでの悔しさとニーチェの言葉が、今の中野さんを作っているわけですね
そうですね。私も未来だけを見て自分を高め、二度と過去に戻りたいと思わない生き方をしようと決意したんです。その日以来、失敗を失敗と捉えなくなりました。毎日18時間は働いて、休日は月に一度取るか取らないかレベルで頑張りましたね。当時の私は、それほど10年分の過去を取り返そうとしていたんだと思います。
「すべてを単なる事象と捉えれば、失敗という概念そのものが変わる」と語った中野氏。変えられない過去に目を向けるより、未来のための意思決定が、未来をプラスに好転させる。起きたことは関係ない、失敗に囚われるかどうかを決めるのは常に自分である。中野氏の言葉を聞いて、哲学とはこんなにも人を強くさせるものなのかと思い知った。
社名 | 株式会社BUDDICA |
住所 | 香川県高松市六条町187-1 2F |
代表 | 中野優作 |
設立 | 2017年6月 |
HP | https://www.buddica.jp/ |