株式会社KAORU|長谷川 穂

最初の起業はうまくいかなかった。失敗と取るか、未来の糧と取るかは自分次第。使えない部下がダメなのか、育てられない上司が無能なのかも捉え方。

長谷川稔(はせがわ みのる):北海道出身。株式会社KAORU代表。レストランでの修行を経て、イタリア料理を独学。2011年、「リストランテ薫」をオープンし、ミシュランガイド北海道にて1つ星を獲得。2018年、「長谷川稔(現 薫 HIROO)」を東京都広尾にオープン。現在は、「長谷川稔Lab」のプロデューサーとしても活動。

失敗は本人の捉え方にすぎない

─長谷川さんにとって、今までで記憶に残るような大きな失敗はありましたか

失敗って思いつかないんですよね。一度目の共同経営はうまくいかなかったので、世間では失敗と呼ぶんでしょうけど。それも私にとっては良い経験だった。糧になったという意味では、マイナスも失敗ではないですよね。本人の捉え方の問題ではないでしょうか。

─共同経営の事業はなぜ良い結果にならなかったのでしょう

途中から、私と相手の考え方が合わなくなったんですよ。しかも、当時の私は相手の提案に対して、どんな内容でも否定から入ってしまう性格でした。その経験を教訓に、現在は肯定から入るようにしてます。明らかに違う点はともかく、一旦は相手を受け入れないと良い部分すら見落としますので。

這いあがろうとする気持ちが、失敗を克服する

─では、失敗した人や悩んでいる人に向けて、長谷川さんからのアドバイスやメッセージはありますか

まず、小さな失敗はその都度どうにかすればいい。一方で、悩みが大きすぎるなら、「復活したいと思えるまで待つ」のもありだと思うんです。追い込まれてる時は、良い意見やアドバイスも耳に入ってこないんですよ。良い本も売ってますけど、追い込まれた私には一切の情報が役に立ちませんでした。

「悩みが大きすぎると、精神が受け付けないから意見が役に立たないんです。そんな時ほど冷静になって、問題に向き合えるまで待てばいいと思う」

─確かに、他人からのアドバイスは「それは自分でもわかってるんだけど」というケースも多いですよね

そうなんです。人に頼って解決できれば良いですが、まずは自分で這い上がる気持ちを持たないとダメですよね。大きく失敗したのであれば、一旦は落ち込んでも当然だと思うんです。そんな時は焦らず、「復活したくなるまで待つ」でもいい。いつかお腹が空くように、放っておけば復活したいって思えますから。

部下が使えないのは、育てられない上司の能力不足

─近年では、部下の育て方や「使えない若者に困ってる」という上司や経営者も多いです。長谷川さんは経営者としてどのように考えていますか

そもそも使えない人なんていないんです。部下を使えないという人は、人を育てる能力がない上司や経営者なんだと思う。“業務を滞りなくできるレベル”にすら、部下を引き上げられないわけですから。かつて、魚すら捌けない子が私の下にいましたけど、現在は一流店で腕を振るってますよ。上に立つ以上、普通に仕事できるレベルまでは育てる能力が必要です。できないなら、部下ではなく上司のマネジメントに問題がある。本来そういう人は面接してはいけないし、指示する立場に立つべきではないと思います。

大きく価値観が変化した母の病

─これまでは失敗を糧にしてきた長谷川さんですが、辛かったことや悩みによって成長を味わった経験はありますか

ガンを患った母の最期は私にとって大きな転機でした。病が進行していくと、徐々に食べられなくなりますよね。体力も次第に衰弱するんですが、母は一度も泣かないし、愚痴すらこぼさなかった。私と父は辛くて泣いてたのに(笑)。母の姿を見て感じたんです。生きる意味って、人生の重みを人に伝えていくことなのかなと。

それまでは、家族の意味なんて考えたこともなかったし、何もわかってなかったんだと知りました。一生懸命、最後まで生き抜く母の姿は、個人主義だった私の価値観を根こそぎ変えましたね。以来、「自分さえ良ければいい」と思う感情は一切なくなりました。

「母の姿を見て、自分も人に良い影響を与えたくなったし、それがまた受け継がれたら最高じゃないですか」

─他人を思いやるという転機が、現在のスタッフ教育にも活かされているのではないでしょうか

そうですね。私には子どもはいませんが、育てるという意味ではスタッフに当てはまってます。料理のスキルや知識だけでなく、仕事の本質や目的も含めて導いてあげたいです。母の残してくれたメッセージが、「使えない人材はいない」という価値観にも繋がってると思います。

─世間的な失敗はあっても、あまり気にしたことはないし、捉え方によっては糧になる。仮に悩んだとしても、「自分の意思で復活すればいいだけ」と長谷川氏は話した。経営者にとって重要な部下の育て方も然り、多くのビジネスパーソンが取り入れるべき思考ではないだろうか。

社名株式会社KAORU
住所東京都港区南麻布4‐5‐66
代表長谷川稔
設立2017年09月
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