順調に進んだプロジェクトが、リーマンショック一撃で頓挫した。銀行からは手の平を返され、倒産の文字が頭をよぎり始める。恩人にピンチを救われた今、改めてご縁の大切さを伝えたい。
高校卒業後は自衛隊に入隊。のちに地場不動産・住友不動産販売の勤務を経て、任意売却専門のプロ集団、株式会社エイミックスを設立。住宅ローンが破綻により、次々に破産していく債務者に疑問を持った貝阿彌佳則(かいあみよしのり)代表。不動産業界のあらゆる酸いも甘いも経験した貝阿彌氏に、ドンゾコ体験をお聞きした。
最大のピンチ。リーマンショック
─貝阿彌さんの人生のなかで、記憶に残るような失敗があれば教えてください
小さな失敗は山ほどありますが、2008年のリーマン・ショックは最も肝を冷やしました。ちょうどあの頃は、購入した土地に建築してファンドへ降ろす仕組みが流行っていました。私もその手法を使おうと、とある80坪ほどの土地を購入したんです。当時は十分な資金もあったので、ここに建てたら絶対イケるぞと。契約も順調に進み、銀行からの融資も問題ないということでプロジェクトを進めていました。
そんなある日、完成を目前にリーマンが破綻してしまった。あの衝撃は今でも鮮明に覚えてますね。世界中が経済の煽りを受け、いきなり銀行が「融資できない」となった。事前に融資の契約を済ませたのに、手の平を返されたんです。土地は自己資金でも、建物の約2.5億はすべて借り入れの計画でした。もう無理かもしれないと思った記憶があります。結果的には信頼する恩人に助言とサポートいただいて、無事に融資を受けることができました。
誠意と気遣いが信頼関係を構築する
─リーマンショックが原因という、予期できない失敗でもあったと思うのですが、改めて経験から学んだことがあればお願いします
人との関わりにおいて、常に誠意を持つ重要性ですね。もし、リーマンの時に私を助けてくれた方がいなければ、確実に終わったと思います。損得の目的で関わるよりも、常に関わる人に誠意を持って接する。日頃はうまくいってても、いざピンチの時に何枚のカードを持っているか。その切り札が多いほど、ビジネスでは大きなアドバンテージになると思います。
「いざという時に切り札となるカードを何枚持てるか。だからこそ、日頃から誠意ある姿勢で信頼と信用を積み上げるんです」
─人間関係の構築が重要であると。具体的な行動の例があればお聞きしたいです
まず、知り合った人に仕事の話を持ちかけません。せっかくご縁で知り合った人に、いきなりセールスなんてしたくないわけです。逆に相談があれば、誠意を持って的確にアドバイスします。依頼があれば誠意を持って対応しますが、せっかくの出会いを大切にしたいんです。そして、いざピンチになった時は、初めて頭を下げて相談する。すると相手は、「普段は頼み事をしない貝阿彌のことだから、よっぽどのことがあったんだな」と、快く力を貸してくれます。
失敗したら課題を他人に指摘してもらう
─では、いま失敗で悩んでいる人に向けて、貝阿彌さんからアドバイスをお願いします
まず、どんな失敗でも基本的には復活できる前提で考える。その上で、例えば仕事で失敗したら信頼できる誰かに話してください。それは慰めてもらうためでなく、「どこがダメ」「どうしたら成長できるか」を言ってもらう目的です。自分では見えない課題もあるので、徹底的にダメ出しとアドバイスをもらうこと。慰めてもらったところで本当の復活はできませんから。いま悩みがある人は誰かに話してみてください。
ビジョンは後継者の育成と次世代のサポート
─最後に、貝阿彌さんの今後のビジョンがあれば教えてください
引き続き、不動産以外の事業はしません。私はこれまで多くの人にお世話になりながら、長くビジネスをしてきました。そういう意味では、次世代の挑戦者をサポートしようと思ってます。現在もビジネスモデルを聞き、勝ち筋が見えると判断した人には出資しています。見ず知らずの株式に投資するより効率も良いし、うまくいけばwin-winで気持ちもいいですよ。
「私も長年この世界でやってこれたのは皆さんのおがげ。これからは若い人をサポートするフェーズに入ったと思ってます」
それともうひとつ。私の個人的なビジョンとして、娘を一流の経営者に育てたい。せっかく私の事業に興味を持ってくれたし、親としても経営者としても嬉しいことです。世代交代の意味も込めて、しっかり娘のキャリアをサポートしたいと思ってます。
─2008年のリーマン・ショックで倒産の危機から救ってくれたのは、かけがえのない恩人だった。「誠意ある人間関係の構築が、ピンチほど大きなアドバンテージになる」と貝阿彌氏は語ってくれた。貝阿彌さん、貴重な話をありがとうございました。